研究概要 |
動脈硬化病変に対する光力学的療法の応用を目指し,平成3年度までに光増感色素としてテトラサイクリン誘導体のドキシサイクリン(Dc)を使用し,その動脈硬化組識への選択的集積性,レーザー照射効果の増強作用等を検討してきた。平成4年度は腹部大動脈に動脈硬化病変を作製した家兎動脈硬化モデルを使用し,Dcを静注により投与後,開腹,腹部大動脈を切開後,動脈硬化組織に直接レーザー照射することにより光力学的療法を施行し,その治療効果を継時的に検討した。レーザー照射条件は正常血管部に急性変化をおこさない程度の出力として,Nd:YAGレーザーの第3高調波(355nm)のパルス波(パルス幅10nsec,繰り返し数10Hz)を照射径7mm,照射中心出力0.3w/cm^2で3分間照射した。照射後は照射直後,1週間後及び2ヶ月後に摘出標本を作製し,光力学的療法の効果を組識学的に検討したところ,照射直後には時に変化を認めないものの,1週間後には全例に硬化内膜及び内膜下に壊死を思わせる細胞成分の減少が認められた。また,照射2ヶ月後の検討では照射中央部において動脈硬化組識の消減,辺緑部におけるその退縮が全例に認められた。本研究結果は光力学的療法がその光化学作用により動脈硬化組識を比較的緩徐な変化により消減,壊死させ得ることを示しており,血管損傷や末梢塞栓の可能性も少ないことを考慮すると非常に有望な治療法と言える。現在,フィバー導光による管腔内照射実験,さらに臨床応用を検討中である。一方,光増感色素の動脈硬化病変への選択的集積性を利用し,その集積程度と動脈硬化組識所見との関連より,動脈硬化や線維化の程度をよく反映しており,この結果を報告するとともに,現在,組識学的側面を反映した動脈硬化病変の質的診断法として臨床応用を検討している。
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