本研究は脳外科手術中に傷をつけてはならない神経群の位置を知るために、次のようなシステムの構築を目標としている。先ず、術中患者の末梢神経を刺激し、発生する誘発電位を複数の対電極を備えたプローブで検出し、その多チャンネル波形情報からプローブと位置との相対関係を求める。更に、ニューロナビゲータから得られるプローブ位置情報を加味して神経位置を脳画像上に重畳表示する。 上記システムを実現するにあたって、先ず重要なのは背景ノイズに比して微弱な誘発電位の波形をいかにして精度良く再現するかということであるが、この目的で通常行われる同期加算処理では潜時のゆらぎや少数回混入する突発性の過大ノイズが波形の信頼性を大幅に低下させるという問題があった。特に、手術環境下での誘発電位測定ではこれらの問題がより大きくなる。そこで、3年度は先ず誘発電位の同期加算にニューラルネットを用いる方式について基礎的検討を行った。用いたネットはKohonen形のFeature Mapで、サンプリングされた波形はネットワークにより特徴空間に写像され、特徴空間内で平均化操作を行った後に、その群の重心点を逆写像して時間波形を再現した。この方法によると潜時のゆらぎや過大ノイズの混入による波形歪が避けられることがわかった。さらに、用いる特徴空間層の形状としては、種々の潜時を持つ波形群を処理するためには、いままで用いられていた正方領域よりも長方形領域を用いた方が位相関係がより正確に表現できることがわかった。 4年度は主として、多チャンネル電極から得られる波形群と神経との位置関係を求める演算にバックプロパゲーション形のニューラルネットを用いる方式について検討を行い、ヒト正中神経の走行位置を推定する基礎実験を行い、その有効性を確認した。
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