う蝕の予防法として、う蝕の病原細菌ミュ-タンスレンサ球菌に対する受身免疫法が研究されている。本研究の目的も、同菌の菌体表層タンパク質抗原PAに注目した受身免疫法の開発である。申請した3年間に及ぶ研究の1年目として、本年度は以下の研究成果を得た。 ミュ-タンスレンサ球菌のPAのアミノ酸配列のデ-タを基に、PA分子全長にわたる153種のペプチド(10アミノ酸)をエピト-プスキャンキットを利用して合成した。次に、MHCclassIIを異にするコンジェニック系マウスを精製PAで免疫して、抗PA血清を得た。これらの抗血清の上記合成ペプチドに対する反応をELISA法で測定すると、マウスの系によって抗体の標的となるペプチドの分布が異なっていることが明らかになった。すなわち、10アミノ酸の合成ペプチドでは、B細胞エピト-プはMHCclassIIにより遺伝的に拘束されていることが示唆された。 さらに、10アミノ酸よりはるかに大きいペプチドにおけるB細胞エピト-プの分布を調べるために、PA分子全体を分子量2-3万の7種のポリペプチドに分けて遺伝子工学的にE.coliに産生させることにした。すなわち、ミュ-タンスレンサ球菌から得たPA遺伝子から、ポリメラ-ゼチェイン反応によりそれぞれのポリペプチドに対応するDNA断片を作製した。これらのDNA断片をガラクトシダ-ゼ融合タンパク質発現系のベクタ-に連結してE.coliに導入した。得られた組換えE.coliから、PA断片をSDS存在下の各種カラムクロマトグラフィで精製した。 次年度では、この分子量2-3万の組換えPAポリペプチドに対するコンジェニック系マウスのB細胞エピト-プの分布を調べ、さらに、ヒトボランテイアの血清中の抗PA抗体のエピト-プの分布についても検索を加える。さらに、これらのポリペプチドで免疫したマウスでミュ-タンスレンサ球菌の口腔内への定着が抑制されるかを調べ、受身免疫法に最も有効なペプチド断片を決定する。
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