研究概要 |
チエナマイシンに代表されるカルバペネム系抗生物質は幅広い抗菌スペクトルと極めて強力な抗菌作用を示すことから、次代の抗生物質として期待されているが、化学的にまた生物学的に不安定であることが医薬品として開発する上で問題となっている。そこで抗菌力を減少させることなく、安定化を計ることが現在切に望まれている。一方、有機化合物にフッ素原子を導入すると、物性と共に生理作用において顕著な変化が生じることが良く知られているため、カルバペネム環上の水素原子をフッ素原子で置き換えた化合物の合成を計画した。この目的達成のために(1)不斉中心上にフッ素原子が存在するキラル合成素子の普遍的製法の確立、及び(2)β-ラクタムの4位への含フッ素アルキル鎖の導入法の確立について検討し、この成果を踏まえて、フッ素化カルバペネム誘導体の合成を行なった。 (1)含フッ素キラル合成素子の製法:まずプロキラルなマロン酸誘導体からの、第三級及び第四級不斉中心を持つキラル合成素子の一般的製法を開拓し、この手法を展開して、フッ素原子を不斉中心上に持つ第四級炭素の構築を検討した。この結果、反応機構の解明と同時に、ジアステレオ選択的に誘起される不斉中心の絶対配置を予想することが可能となり、さらに我々が開発した分子内1,3-双極子環化付加反応を利用して、1-フロロカルバペネムに誘導出来る含フッ素キラル素子のエナンチオ選択的な合成に成功した。 (2)含フッ素アルキル鎖を持つβ-ラクタム体の合成:4-アセトキシ-β-ラクタム体に体して、リチウム塩基の存在下にフロロマロン酸エステルを作用させて、定量的なアルキル鎖の導入に成功した。本反応成績体より1-フロロカルバペネム及び1-フロロ-1-メチルカルバベネム体の重要中間体を合成し、さらに分子内Wittig型反応を利用して、フッ素原子を環上に持つカルバペネム誘導体へと導いた。
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