研究課題
試験研究(B)
当初、冬中夏草より得られた新しい免疫抑制剤であるISP-1に対し特異的な受容体あるいは結合タンパク質の存在を想定し検索を行ったが、成功せず、ISP-1は特異的な結合タンパク質を介して作用するものではないとの結論に達した。そこで次に、抗原刺激のシグナル伝達系に対するISP-1の作用を検討した。抗原刺激によるT細胞活性化機構は大きく二つに分けることができる。第一は、T細胞受容体に抗原が提示され、そのシグナルが最終的にIL-2の産生を促す過程。次に、産生されたIL-2がIL-2受容体に結合しT細胞の分裂を引き起こす過程。前者は、「T細胞受容体シグナル経路」、後者は、「IL-2受容体シグナル経路」と呼ばれる。種々の免疫抑制物質のうち、シクロスポリンAやFK506は前者の経路を、ラパマイシンは後者の経路を阻害することが知られている。そこで、ISP-1がどちらの経路を阻害するかを検討したところ、ISP-1はIL-2の産生は阻害せず、後者のIL-2受容体シグナル経路のみを阻害することが明らかになった。次に、IL-2依存的に増殖をするCTLL-2細胞の系を利用して、ISP-1のアンタゴニストの検索を行ったところ、ISP-1類似物質であるスフィンゴシンがアンタゴニストとしての強い活性を有していた。スフィンゴシンは生体内で種々物質と結合し、スフィンゴ脂質として存在し、それらのいくつかは、細胞内シグナル伝達のメッセンジャーとして働いていることが知られている。さらに、スフィンゴシンのISP-1阻害活性機構について検討を加えたところ、ISP-1は、スフィンゴシンの生合成系を阻害することでCTLL-2の増殖を阻害し、外から加えられたスフィンゴシンは、ISP-1によるスフィンゴシン生合成の阻害を補うことで、ISP-1に対してアンタゴニストとして働いていることが推測された。以上の知見は、IL-2受容体シグナル経路のより一層の解明に役立つとともに、今後、スフィンゴシン合成系の阻害効果を指標にして、新たな免疫抑制剤の開発を行なえる可能性を示唆している。
すべて その他
すべて 文献書誌 (4件)