弱い発光現象は生体内に広く分布すると考えられており、また外界の光を吸収しそのエネルギ-を蛍光として放出する蛍光発光分子も少なくない。しかし、多くの場合それらの発光が微弱であるため分子的挙動は殆ど明らかにされていない。本研究の目的は発光性生体物質の研究に使用できる解析装置を工夫することにある。この目的に向けて微弱光測定用光子信号の低雑音検出、数十ピコ秒の時間分解能を持ち高速反復計測、蛍光の平行成分と垂直成分の弁別測定(異方性の時間経過)を可能にすること、標準的な発光性物質について再現性の向上の努力が払われ所期の成果が得られた。この装置を用いて、生体膜の基本構造である燐脂質二重層の動的微細構造を検討した。即ち、これまでの研究によって二重層を構成している燐脂質の脂質鎖の部分が搖動していることは明かであった。しかし燐を含む頭部の挙動は全く不明であった。この燐頭部に蛍光色素クマリンを結合させ、クマリンの発生する蛍光の異方性を追跡することによって燐頭部の振動の状況を知ることが出来るようになった。クマリン結合燐脂質を組み込んだ人工的燐脂質二重層膜粒子について異方性の時間的減衰経過を測定したところ、意外なことに頭部は脂質鎖よりも高速に搖動運動を行なっていることが明かとなった。この振動の医学的意義は今後に残された課題であるが分子生理学的研究の端緒が得られたと思われる。更に極微弱光の検出系については、C2400-47CCDカメラを用いて直接測定の可能性を検討した。しかし今の処白血球などの発光を捕らえることも難しく、やはりルミノ-ル等を用いた増感処置が必要とみられる。
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