今年度は時間分解蛍光偏光解消に基づく生体物質解析装置によって、平面試料からの蛍光を解析することに意を注いだ。その初期段階の試料としては、生物材料よりは人工的試料の方が取り扱い易いので、近年盛んになりつつある脂質平面膜、ラングミュア・ブロジェット膜(LB膜)について試行した。LB膜は有機物質を平面上に並べ、機能性薄膜を設計するために研究されているが、薄膜に並べられた分子の動的挙動に関する解析は充分ではない。本研究により、薄膜の分子挙動解析のための基本として新しい概念Fraction of polarizationを提唱するに至った。この概念は平面に並んだ蛍光分子膜から放射される偏光した蛍光の特性を表示するのに極めて便利である。すなわち、傾斜揺動モデルを用いて分子の傾斜方向、揺動角、揺動の拡散速度を計算することが出来るようになったのである。一例としてステアリン酸のLB膜の分子振動を解析した。あらかじめ蛍光分子DPHで標識した小量のプロピオン酸を含有させて置くと、ステアリン酸と一緒に振動して、偏光した蛍光を放出するのである。その結果、温度20℃では、ステアリン酸は平均約20°傾斜して並んでおり、この平均値を中心として15°から22°の範囲で揺動していること、その拡散速度は4-5x10^<-7>/secであることが明らかとなった。このような成果は、次の段階である発光性生体物質の動的性質の解析にも極めて有力な手がかりを与えるものである。
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