研究概要 |
カルシトニン(CT)は甲状腺C細胞で前駆体として産生され,限定切断反応とアミド化反応をうけて生理活性型CTとなる。これらの反応は内分泌細胞に特徴的で,皮膚細胞,筋肉細胞,リンパ球のような非内分泌細胞ではおこらない。我々は生理活性型CTを適度に分泌する“細胞医薬"を非内分泌細胞を用いて作る目的で,CT遺伝子を上記のような細胞で発現させることを試みている。初年度は,ヒトCT前駆体cDNA中の生理活性CTに相等するDNA部分を,ヒトより50倍生理活性が強いサケCT DNAに置き換えた。次にCT前駆体が内分泌細胞のみならず非内分泌細胞にも広く存在する限定切断酵素Furinの切断反応をうけるように,サケCT部分の両端を4つの連続した塩基性アミノ酸配列をコードするDNAに変異させた。2年度は限定切断反応の効率を上げるため,CTのカルボキシル端(C)に伸びるペプチド部分をDNA配列から切除した。即ちC端はアミド化の基質であるグリシンになった。更にCTのアミノ酸の切断部位も-1位から-4位の塩基性アミノ酸に加えて-6位にアルギニン基を加え,切断効率の向上をはかった。この変異CT DNAを導入したCOS-7は正常CTと同じサイズでC端にグリシンが付加したカルシトニンを産生した。しかしCTが生理活性をもつためには更にグリシンがアミド化反応をうける必要がある。そこでアミド化酵素cDNAをラット脳cDNAライブラリーよりクローニングした。CTを発現させる細胞としてはNIH3T3とCHOを選んだ。NIH3T3は切断酵素Furinを多量に含むがアミド化酵素を含まず,逆にCHOはFurin活性は少ないが,アミド化酵素を多量に含むという特徴がある。3年度はこれらの細胞でCT前駆体がどのようなプロセシングを受けるかを検討した。産生されたCTを2年度に作成したアミド部分に反応する抗体,及びグリシンが付加したCTに反応する抗体を用いて検討したところ,NIH3T3ではグリシン付加CT,CHOではアミド化CTが産生されていることが分かった。今後は培養細胞株のみならず,in vivoでの皮膚の初代培養細胞を用いてCT発現を検討する課題が残された。
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