過去20年間、電気泳動はゲルブロックを場とした方式を主流として発展してきた。それはキャピラリー電気泳動の出現によって大きな転機を迎えている。後者においてもゲルを媒体として用いることができるが、同一キャピラリーの再使用不可およびゲル形成の低再現性はキャピラリー電気泳動電気泳動の特性である定量性を大きく減殺するものである。本研究は媒体として高分子溶液を用いることによって、媒体の特性の制御を容易かつ精密化することによって、キャピラリー電気泳動の活用に新規な局面を切り開こうとして企画された。その後、このアプローチは世界的に注目されるところとなり激しい研究開発競争が展開されてきている。我々は、この種の方式の原理に切り込んだ研究を通じて、独自性ある研究開発を目指している。今年度においては、キャピラリー電気泳動において、λ-ファージーのDNAの制限酵素(Hind III)断片が線状多糖類、プルラン、の溶液によってふるい分けられる状況を、プルランの濃度と重合度を変えて詳細に検討した。その結果、現在の通念である高分子鎖の絡み合いによって形成された網目によってDNA断片がふるい分けられているとする解釈が誤っていることが明らかになった。断片と高分子鎖がキャピラリー内空間での独立物体として相互作用することによって、充分にふるい分けられるのである。現在、この状況をさらに光散乱測定などによって確認し、理論構築を行い、さらに実用性のある方式を生み出すべく努力をしている。本研究の成果は、昨年秋に開催された日本生化学会年会およびキャピラリー電気泳動シンポジュウムにおいて報告した。
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