昨年度はテクネチウムのチオウレア錯体イオンを対象として、レーザー光音響法によるテクネチウムの検出感度を検討し、10^<-8>M程度のテクネチウムの検出に成功した。また、その定量可能な濃度領域は10^<-6>〜10^<-8>Mと幅広く、通常の吸光光度法に比較してより感度良く、また広範な濃度領域にわたる適用性が示された。本年度は以上のことをふまえてより検出感度の向上を目指し、テクネチウム4価のイソチオシアナト錯体イオンを測定対象とした。この錯イオンは、レーザー光強度の比較的強い500nm付近に約50000というモル吸光係数を持つため、より効率的な検出が期待された。この錯体は、酸性条件下においてチオシアン酸溶液に過テクネチウム酸を混合するだけで定量的に生成する。ただし、そのまま放置するとさらに還元が進み、4価の錯体から3価の錯体へと反応が進行する。アセトン存在下においてはそれが抑えられ、長時間4価錯体のままで安定に留まる。これらの基礎的な化学反応の諸特性を調べた後に、レーザー光音響法による検出を試みた。その結果、10^<-7>〜10^<-9>Mの濃度範囲において定量的なシグナルを得ることに成功した。現在のところ、本装置を用いたテクネチウムの検出感度はナノグラム程度に達しているが、この値は非常に感度の良い放射化分析法に匹敵するものである。レーザー光音響法の検出感度の優れていることは本研究によって十分に実証されたが、今後は溶液中の化学種同定への適用がさらに期待される。
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