今年度の主要研究目標は、以下の二点であった。(1)最初期の論理学綱要書(Introductiones)二部の校訂・研究、(2)Ps-Rabanusの注釈-11世紀末に書かれた中世で最初のイサゴーゲ-注釈-の校訂本文を、出版にむけて最終的にとりまとめること。 (1)については、十二分に成果があった。二部のIntroductionesは、これまで12世紀初頭の著作だと推定されていたが、さらに古く11世紀末のものであること、また、これまで論理学著作の知られていなかったWilliam of Champeauxの著作であること、さらにこれらが後にIntroductionesと呼ばれるジャンルの嚆矢となること、以上を証明することをえた。これらの成果は、予定通り、6月にNijmegeuで開催された第10回中世論理学・意味論ヨーロッパ・シンポジウムで発表し、同シンポジウムのActsで公表される(下記「研究発表」〓第一論文)。また、二部のIntroductionesの校訂本文は別に発表の場が提供された(第二論文)。(第一第二論文ともに送稿ずみ)。さらに、この研究の進行過程でとりあつかった若干の未刊論理学書について、研究の副産物として、第三論文となった。 (2)は、Grammatica speculativa叢書で出版されことが決まっており、本年度中に、校訂本文および序文の“Camera ready sheets"を完成させる予定であった。そして、予定通り、昨年末に一たん送稿はした。しかし、同叢書のeditorであるFreiburg大学教授K.JacobiおよびNijmegeu大学教授C.H.Kuecpkeusが、序文その他になお検討を加えるべきいくつかの点を指摘してきたので、この課題の完成は次年度にもちこすこととなった。
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