本年度当初の研究実施予定は、1200年以前に書かれた全ポリュフィリウス注釈類校訂本文について出版にむけての最終的とりまとめを行なうことであったが、この予定は達成できなかった。しかし、前年度までに既に十分な成果をあげえたと思えるので、本研究はとりあえずこれで終了したことにして、残された課題は今後の研究に待つことにしたい。 本年度の主たる研究成果としては、それにかわって、1993年10月にカンタベリーで開かれたアンセルムス学会に出席・発表したことがあげられる。発表論文“Universal Theories of Anselm and his Contemporaries"は、当時書かれた全ポリュフィリウス注釈の研究にもとずいて、アンセルムスその他のいわゆる「実念論」にたいして従来の通説とは全く異なった解釈を与えたもので、前年度に発表した初期唯名論に関する論文と対をなすものである。(同論文は、ついせんだって学会録編集者に送付したばかりで、掲載予定の正式な返事をいまだ得ていないので、下記の「研究発表」からはずした)。 そのほかにも、今後の研究にむけてのきっかけとも言うべき小成果がいくつかあった。第一に、Ch.Burnett(ロンドン大学 Warburg Institute)が、これまで知られていなかったポリュフィリウス注釈を発見したことを知らせてくれたので、他の注釈類とともに校訂本に加えたい。第二に、学会の帰りに立ち寄ったパリでC.Mews(Monash大学)およびI.Rosier(パリ第七大学)と話し合う機会があり、唯名論に関する拙論をさらにおしすすめる着想を得て、互いに共同して研究をすすめることになった。さらに、上記C.MewsとF.Gasparri(S.N.R.S.)とでアベラールの論理学写本について興味深い研究課題を見いだしたので、この点についても三人で共同して研究にあたることになった。
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