研究概要 |
科学的説明の理論には現在ほぼ3つの立場がある。1.演繹主義的立場,2.因果的,機械論的立場,3.語用論的立場である。1.の演繹主義が予想する説明モデルはヘンペルのD-N説明のそれに近いが,I-S説明を説明として認めない点がヘンペルと違う。ここでの問題は,決定論に固執したり量子力学の説明能力を否定したりすることなしに,幾つかの重要な量子力学的現象をどのようにして説明しうるかである。この立場の主張によれば(Watkins1980),個別ミクロ事象の説明は断念する外ないが,多数の粒子の集団的ふるまいを含むマクロ事象の説明は可能である。この立場では,I-S,S-R説明の理論に付きまとう幾つかの難問を回避できる反面,被説明項の事象の原因を特定できるが説明が与えられず,説明を与えられるが原因が特定できない場合が生じうるであろう。2.の立場では,科学的説明を,特定の現象がどのような因果的メカニズムによって起こるかのローカルな説明であると考える。その際,説明項と被説明項の関係を,(1)I-S説明のように,帰納的確率によって評価される認識的(この場合は推論的)関係とは考えず,(2)客観的確率を与えられる存在的関係と理解する。説明とは事象を自然の規則性に適合させることである。このように(1)と(2)が分かれるのが,非決定論的な統計的説明の特徴である。(1)の認識的説明概念には推論的なものの外に,情報理論的概念を統計的理論の与える説明の十全さを評価する基礎として用いるものがあり,またすべての説明を「何故」への答えと考える立場もある。この考えに基づくvan Fraassenの説明理論(1980)は,典型的な説明の語用論(3.)の一つとみなすことができる。説明の語用論の詳細については,最終年度になお研究すべき課題として残されている。
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