研究概要 |
日本の仏教研究は,明治以後,欧米の文献学的手法をとりいれ,サンスクリット文献やチベット語文献を駆使した研究が主流となって今日に及んだ。しかし近年,伝統仏教の遺産に高度かつ細密な思想的論究のあることに眼が向くようになり,唯識の分野でも法相宗の根本聖典である『成唯識論』の研究が顧られるようになってきた。私も,この研究を通じて,その仏教研究における重要性について明らかにしたいと考えているところである。 本年度は,2年の研究計画の初年度にあたることから,特に『成唯識論』を中心に,法相唯識の基本的な考え方について,詳しく学習することに力を注いだ。特に,『述記』だけでなく,『了義灯』を合わせ読むことによって,細かな問題がかなり明らかになったと感じた。一方,インドにおける議論のありようを直接伝えるものとして,クマ-リラのシュロ-カバ-ルッティカの,アポ-ハに関する論究を詳しく尋ね,言語と認識の関係等について考察を加えた。 これらの研究を補強すべく,龍谷大学,京都大学,東北大学を尋ね,各専門の先生方と意見交換を行い,また資料の調査・収集にあたった。 本年度の研究成果としては,特に『成唯識論』の伝える安悲の慧の認識論,存在論について究明した論文をまとめ,大学紀要に発表することとした。また,唯識研究の最も基本となる『吸識三十頌』に関して,スティラマティ(安慧)の『唯識三十頌釈』および『成唯識論』を対比させつつ,その思想の全猊を解明した著書を上梓することとなった。 明年度は,これらの研究を集大成し,できれば学位論文をまとめたいと念願している。
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