研究概要 |
『現観荘厳論』は般若経の注釈としてインドにおいて、重要視されたものである。この論書はチペットに伝えられ、そこでは仏教の学習の重要なひとつの柱とされていくが、中国には伝えられることはなかった。そのため『現観荘厳論』の研究には、チベットに残されているこの論書の翻訳や注釈を研究することが不可欠である。 『現観荘厳論』は全体が八章七十項目(八支七十義)に分けられている。論の最初にこれらの項目が列挙され、論全体の構造が見渡せるようになっている。この部分を後代の注釈者たちは論の「摂義」と呼んで、八支七十義のそれぞれを簡潔に解説している。そのため、この部分の注釈は『現観荘厳論』の概説と見ることもできる。したがって、本研究では、この部分に焦点を絞って、ハリパドラの『小註(Sphutartha)』とそれの複注であるタルマリンチェンの『注釈、'心髄荘厳(rNam bshad snying po rgyan)』を和訳し、『現観荘厳論』の研究の端緒とする。チベットでは、『現観荘厳論』の入門書としてこの部分だけを取り出したものが多く作られており、"Donbduncu(七十義)"と呼ばれている。 本研究では、『注釈、心髄荘厳』のチベット語テキストのサルナート版(刊本)と大谷大学所蔵版を校合して和訳の底本を作成し、その和訳草稿を作った。翻訳に際しては、ハリパドラの『小註』に対するインド撰述の複注二篇(Dharmakirtisri釈;北京No.5192,Dharmamitra釈;北京No.5194)を随時参照し、インドとチベットの注釈の伝統の違いの主なものを注記することにした。また、訳文中、《》によって『現観荘厳論』(本偈)の語を、下線によって『小註』の語を示して、タルマリンチェンの注釈の仕方を明示している。 今後引き続いて、『現観荘厳論』第一章の残りの箇所の注釈部分の翻訳研究を行っていく予定である。
|