研究概要 |
『勝鬘経詳玄記』は,凝然(1240〜1321)が聖徳太子の三経義疏の一つである『勝鬘経義疏』に準拠しながら『勝鬘経』を註釈したものである。当該の研究課題とする四天王寺本の『勝鬘経詳玄記』は,全18巻のうち従来,散逸して伝わらなかった巻2から巻5を含む新出の資料である。従って,この四天王寺蔵本『勝鬘経詳玄記』を広く世に公開するための基礎的研究が急務となってきた。そこで本研究の平成3年度研究計画では,新出の部分の厳密な解読を第一の研究目標としていた。 本研究においては,平成3年度の研究計画に従って,次のような実績をあげた。 1.新出部分の原稿化 本書は毛筆による書写本で,しかも複数の人々の筆写になるものであり,その筆写癖などを把握したうえで原稿化するのに殊の外時間を費やしたが,一部の難解な文字を除いてほぼ原稿化を終えた。これは新出『勝鬘経詳玄記』の研究の基礎になるものである。 2.散逸資料の復元 「1」で原稿化した『勝鬘経詳玄記』の解読をはじめたが,その中で幾つかの注目すべきことがらが明らかになった。即ち,すでに散逸して伝わらなかった『勝鬘経』註釈書がかなりの長文にわたって引用されていることがわかったことである。たとえば,その中には新羅元暁の『勝鬘経』の義疏などがある。それらの復元が可能であり,それによって東アジアにおける『勝鬘経』研究の展開を窺うことができた。 3.既刊部分の訂正 『勝鬘経詳玄記』の第6巻以降は,すでに『大日本仏教全書』(法隆寺蔵本『勝鬘経詳玄記』)に所収されているが,この新出の四天王寺蔵本写本と対校することによって,より厳密な本書のテキストをつくることができた。
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