アルダ・マガダ語(Ardha Magadhi)で書かれた極めて難解なUttarajjhayaの原典テキストを日本語に翻訳することを目的として研究を進め、初期ジャイナ教の戒律、実践倫理、教理等の概要を知り得た。 まず、邦訳を試みるにあたっては、アルダ・マガタ語という言語の難解さが大きな障害であった。Uttarajjhayaに現われる未解決のアルダ・マガダ語彙を解決するため、Uttarajjhayaと他の文献との詩脚(pada)対照表を作成した。なぜなら、他の文献(特にパ-リ語文献)に現われる並行偈や並行詩脚(parallel pada)の中の対応語彙が難解なアルダ・マガダ語彙の解明に不可欠となるからである。 また、Uttarajjhayaは約1700詩頌で構成されるが、各詩頌の最小単位は詩脚である。これらの詩脚は類種類の韻律で書かれ、それぞれの韻律の制約を受けつつも4詩脚で1つの詩頌を形成しているため、一詩頌といえども全体としてつじつまのあわない詩頌が存在した。そして、いくつかの詩頌が集成され一つの章を構成するのであるが、詩頌の寄せ集めであるため、章全体の内容に付加部分があったり、欠損する部分があったりで、全体としてはまとまりに乏しい章もあった。これらのことは、詩頌が口誦伝承であり、新層・古層の区別なく編入され、1つの聖典を形成していることを示しているといえる。 さらに、シャルパンティエ(Charpentier)の使用した写本が限定され、註釈者デ-ヴェ-ンドラ(Devendra)の註釈に信頼を置いたため、韻律上未解決の問題が数多く残されている。これら韻律上の問題を踏まえてUttarajjhayaを再校訂する必要性を痛感するに到った。この目的達成の為、コンピュ-タを利用して、プラ-クリット語順による索引(順列・逆列)の作成、並びに韻律の分析を試み、将来の発展につながる成果を得た。
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