今年度は、仏具の種類と変遷という観点で諸文献を検討した。奈良時代については、『法隆寺伽藍縁起并流記資財帳』、『大安寺伽藍縁起并流記資財帳』、『西大寺資財帳』、『阿弥陀院宝物目録』、『東大寺献物帳』等における仏具関係の記事を抽出し、法隆寺の現存遺品、正倉院宝物中の遺品と対照させながら、種類・用途について検討した。その結果、当代の仏具は他の時代に比べ、飯食供養具が大きな比率を占めていることが判明した。(これについては、『法隆寺の至宝ー供養具編』(小学館)にて発表の予定)平安時代については、『多度神宮寺資財帳』、『安祥寺資財帳』、『広隆寺資財帳』、『仁和寺御室御物実録』をはじめ、密教の入唐八家による『請来目録』を題材に検討したが、とくに密教独自の法具である「密教法具」については、いわゆる「結界」の性格を濃厚にする金剛杵、金剛鈴、輪宝、羯麿、四〓が中国から請来され、定着がはかられて行くことを確認した。また、当代から中世にかけては、仏舎利の信仰に伴う舎利容器・舎利塔の遺品も増加するが、従来、単に舎利容器としてのみ捉えられていたものの中には、密教修法と密接に結び付く法具的な性格を備えた遺品が存在することが推定された。(このことは「南都における中世舎利荘厳具の展開(一)」『仏教芸術』199号において触れた。)さらに中世以降の仏具の展開については、『翻訳名義集』所収の〓稚道具篇、『勅修百丈清規』などを題材にし、また禅宗関係の用具については、『禅林象器箋』を参照ながら、仏具の種類と展開について検討した。なお、これらの諸文献における記事は、パソコンに入力し、各時代の主たる仏具遺品については、写真資料を収集(約600枚)し、基本デ-タを同様に入力した。(なお当該研究によって得られた仏具の分類に関する試案は、奈良国立博物館編『奈良国立博物館蔵品目録ー仏教工芸編』に反映された。)
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