研究概要 |
かな表記語と漢字表記語での語彙接近過程に質的な差異があるのか,もしあるとすれば,それはどのような機序に起困するのかを検討するため幾つかの実験を組織的に実施するのが本課題の目的である。本年度は2年計画の1年目に当たる。従行,かな表記語は,その語彙接近過程において音韻的媒介を必要とし,漢字表記語はその種の媒介無しに語彙表象へ直接接近できるとされてきた。これが音読課題でのかな表記語の,他方意味判断課題では漢字表記語の優位性をもたらすとされてきた。そこでまず最初に意味判断課題での漢字表記語の優位性を確認した上で,さらに音韻的符号化を妨害すると思われる構音抑制課題を実施し,これが漢字表記語のかな表記語に対する優位性をさらに拡大することにつながるのか否かを検討する実験を実施した。この結果,漢字表記記の優位性は構音抑制条件の有無に関わらず,その大きさに変化のないことが明らかにされた。このことは音韻的符号化に原因を求める考え方に否定的なものであった。そこで次に日本語での同音異気語の多さに着目し,これによるかな表記語の意味的あいまいさが,意味判断課題での漢字表記語の優位性の背景にあるのではないかという仮説をたて,これを検討するための実験を行なった。まず,実験に先だってかな表記した際に複数の意味を想記させる語(かな表記多義語)と単一の意味のみを想記させる新(かな表記一義語)を選択するための予備調査を実施した。これにもとづいて,これら各表記語間での意味判断がどのような関係になるのかを調べる実験を実施した。この結果,漢字表記語,かな表記一義語間の意演判断時間には差がなく,かな表記多義語での判断が前者2タイプの語に比べ遅れることが示された。この結果は,従来の意味判断漢字表記優位説を否定するとともに,表記差効果の機序が語彙接近過程そのものというよりむしろ後語彙接近過程での問題といえることを示唆していた。
|