本研究では、児童生徒の学校教育場面に関する具体的規範・規則が自己にとり義務負担化されるプロセスを解明することを試みた。すなわち、ある行動について単純な善悪判断だけでなく、その良さを増幅させたり、悪さを軽減させたりするような条件が付された場合の、また、より高次の善を実現させるために慣習的な規範を破るような場合の、それらの行為についての善悪判断の変化を調べることにより、児童における道徳意識や道徳感情がより多面的なものに分化していく過程を解明しようとした。調査は、平成3年度に全体的傾向と発達的傾向を分析するために、小学校5年生を主たる研究対象に実施し、小学校2年生と中学校2年生の資料も入手した。また、平成4年度には前年度実施の資料の分析を主に行った。主要な結果は以下のとおりである。 (1)社会道徳的な範囲は、規範性が高く、かつ義務的であった。またその傾向は小学校低学年生で高かった。 (2)学業達成の規範性は、中程度で、学年による変動が少なく、志望的なものとして認知されていた。 (3)慣習的手続きに関する規範では、小学低学年生の規範性が高く、かつ義務的と認知されていた。 (4)小学低学年生では手続きに関する逸脱を認めず、高学年生では向社会性の条件下で、中学生は自己実現の正当化条件下で、逸脱を認める傾向にあった。 手続き規範は低学年では厳しく守られるべき規範として認知されているが、学年の上昇とともに、ある目標達成のための手段であること、つまり場合によっては破ってもよいものとして認知されていくことが示唆された。達成規範についての言い訳条件の効果、手続き規範についての正当化条件の効果について、更なる分析の必要性を感じたため、新たな資料を入手し、現在分析中である
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