本研究では、幼児のかな文字の読みと絵本の読みとを2年間近くの縦断研究から調べ、関連する指標とともに、その発達を検討した。中心となる調査は、2年間3回にわたり、60名程の幼児(幼稚園年中から年長への時期)を対象として行った。かな文字の読み、自分のかなでの名前の読み、かなでの単語・文の読み、絵本の読み、読み書きと本の機能の理解と評価などが主な課題である。並行して、親への質問紙調査で家庭での読み書きや本の環境や親の意識を尋ねた。また、家庭や幼稚園での少数のサンプルによる絵本の読み聞かせ場面の観察を行なった。以上の調査の結果、文字の読みという働きと、読書というそれより機能の明瞭な活動との関連をとらえた。文字を読むという行為は幼児の日常において(特殊な教育は別として)それ自体独立した活動を構成しない。おそらく始めは名前を読むといった他の活動の一部として現れるのであろう。読書はそれに対して終始一貫明瞭な機能性を持った独自の活動として成り立っている。文字を読むということは、絵本を読むという活動の一部を次第に構成するようになる。単に読んでもらうのを聞き、絵を見るだけでなく、絵と字の双方を見て・読んで、理解しようとする。同時に、文字を読むという行為は一つの独自の活動として幼児にとって成り立ってくる。つまり、実用的な目標がなく、文字を読むということ自体が一つの活動として成り立つ。そこでは、せいぜい外生的なほめられるといった機能のみが意識される。読むという活動が文字を読むことだとして理解され、かつ文字を読むだけの活動を実践するようになる。特に、ある程度の数のかな文字を読めると、急にかな文字の読みが進行してほとんど読めるようになることはそのように解釈できる。そして、その次に文字を読むことが読書の一部の過程であること、決定的な情報を伝えるものであることが理解される。
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