1.研究代表者の宮本は『あがり』の状態像を明らかにするために、弓道選手の射技動作と成績が練習場面と試合場面とではどの様に異なるかを研究した。その結果、(1)的中率は試合場面では明らかに低下する、(2)これは喚起水準と作業成績とに関するYerkes&Dodson(1908)の法測が当てはまる、(3)射技動作は競技者の技能水準に依存し、『あがる』という機制はル-チン化していた技能がその不安定さの順序で崩壊していく過程としてモデル化される、等の成果が得られた。 2.また宮本は『あがり』の生理学的特徴を明らかにするために、練習中と試合中の弓道選手から心拍数を測定し、認知反応と対応づけて分析した。その結果、(4)試合場面では心拍数が顕著に上昇する、(5)経験豊かな者では良い成績の時ほど心拍数の上昇が激しく、その時に認知反応としては「あがった」と回答する、(6)経験の浅い者は悪い成績でも心拍数が上昇し、「あがった」と報告する、等が明らかになった。 3.分担者の鈴木は大学の運動選手に対して、まず『あがり』質問紙を施行し、得点の上位・下位者をそれぞれ25%ずつ抽出した。そして彼らに性格検査と心理面接を実施した。その結果、(7)『あがり』の原因して「自信や経験のなさ・練習不促による不安」「大事な試合であるという強い意識」「あがることに対する意識過剰」が抽出され、(8)「集中力の低下」「身体機能の混乱」「自我萎縮感」等の『あがり』の徴候が指摘できた。また競技者は(9)「イメ-ジ技法」「自己暗示」「呼吸調整法」等により『あがり』に対処しており、(10)『あがり』からの回復過程には「自己客体視」「身体機能の回復」等が随伴することがわかった。 4.今後、自我機能を考慮した『あがり』モデルを発展させ、実証的検討を重ねていく計画である。
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