本研究では、アイ・アキラを名づけられた「言語」習得訓練を受けてきた2頭のチンパンジ-と、未経験の若いチンパンジ-4頭の計6頭のチンパンジ-を主たる対象として、チンパンジ-のもつ認知機能の奥行きの深さを、ヒトとの比較において理解し、ヒトニザル上科に普遍的な認知のありようと、ヒトあるいはチンパンジ-のそれぞれの種に固有な認知のありようとを明らかにすることを目的とした。高次視覚情報処理機能のトピックスとしては、心的回転(mental rotaiton)、顔の認知(facial recognition)、数の操作(加算および減算)を吟味した。 上述の研究の大半は、ヒトとチンパンジ-を、コンピュ-タで制御した実験用パネルの前で、まったく同等に扱い、同じ装置と手続きによって比較資料を得ることになる。実験装置は既存のコンピュ-タ-・システム(NEC・PC98)に、プリンタ-、8ミリビデオカメラレコ-ダ-を組みあわせた刺激提示・反応記録装置をもちいる。そのために必要なインタ-フェイスについては自作した。 チンパンジ-に課した心的回転課題では、反応潜時が回転角度の一次関数にならない、逆さま写真の識別がチンパンジ-はヒトより速く正確にできる、「知覚の範囲」がヒトより大きい可能性があるなど、チンパンジ-(あるいはヒト)に固有な情報処理過程の存在が示唆された。「数の操作」については、現在1から10までの命名の訓練がすすんでいる。次の段階として、加算と減算について検証する。なお、漢字を図形文字のかわりにもちいた人工言語用キ-ボ-ドを自作し、図形文字と翻訳可能なかたちでの言語訓練に着手した。
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