本年度は当該計画の最終年度として、高次視覚情報処理の比較認知科学的研究のまとめをおこなった。研究の概要を以下に列記する。【.encircled1.】数についての命名の訓練を継続した。主要な被験者は、アイと名づけられた女のチンパンジー1人である。見本として1から10個の白いドットを左のCRT上に提示した。課題は、右のCRT上に提示された1から10のアラビア数字の中から、該当する数字を選びだしてタッチすることである。まったくランダムに提示する条件で、アイの正答率は約85%に達しているが、隣接する数字間での混同が残っている。これまでの経過からアイは数を数えあげているという確証は得られていないが、マジカルナンバー7を越える量についてチンパンジーが正しく処理できる可能性が示唆された。【.encircled2.】数字の系列記憶にかんする研究をおこなった。0から9までの数字を見本として提示して、選択肢として提示される0から9までの数字でそれを再生する課題である。最大6桁までの数字を提示してその再生をさせたところ、ほぼパ-フェクトに再生でき、しかも特定の走査の方向があることがわかった。基本的には中央から右にスキャンしてから左にもどるというパタンが優位である。さらに第一反応後に遅延見本合わせとなる条件で2個の要素からなる数字列を提示したところ、2個をまとめておぼえるという戦略をアイは自発的にとるようになったその際の記憶走査の方向などについては現在分析中である。【.encircled3.】漢字パターンの視覚弁別をおこなった。数をあらわす漢字10個、色あらわす漢字10個、小学1年生で習得する教育漢字20個、合計40個の漢字について見本合わせをおこなった。正答率ほぼ80%で、これらの漢字の識別ができるようになっている。初期に生じる混同を分析したところ、図形認知一般で見いだされた傾向と同様に、漢字の外周から処理していく傾向が認められた。ヒトときわめてよく似た処理の方略といえる。
|