能力の自己呈示に関する研究は、人が自己の能力を印象づけるためにどうような行動をとるのか、自己の業績(遂行)に関する言明は他者からどのように認知されるか、などの視点から研究することができる。本研究では、とくに前者の問題に関して二つの実験的研究が実施された。第1実験では、「呈示者の成績」および「成績公開の有無」を独立変数として設定した。これらの二つの要因を操作した4種類の刺激文が作成され、男女大学生506名がそのうちの一つを読んで、自分がその人物だと仮定した場合、自分の成績を何点くらいだと思わせたいかを評定させ、さらに、自分をどのように印象づけたいかを15のSD尺度上に評定された。その結果、【.encircled1.】自分が高得点をとった場合、実際の得点より低めて呈示する(謙遜)一方、低得点をとった場合には実際の得点よりも高めて呈示(自己宣伝)すること、【.encircled2.】高得点条件においては、成績が公開される場合の方が公開されない場合よりも実際の成績に近く(正確に)呈示することが明らかになった。 第2実験では、自己呈示の対象と自己との親密さの程度を新たに独立変数として設定して同様の実験を行った。その結果、【.encircled1.】相手が親しい場合には、得点の高低に関わりなく正確の自己の得点を呈示すること、【.encircled2.】相手が顔見知り程度の親しさである場合には、高得点条件では低めに呈示し、低得点条件では高めに呈示する傾向があることが明らかにされた。これは、高得点条件では謙虚さを印象づけようとし、低得点条件では、低い社会的評価を回避するために高めに自己呈示するものと解釈された。
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