手や指で絵や図形を認知することは、文字や実物を認知するとは違い困難である。しかし、盲児の知的発達や盲人の知的活動の補助のためには図形認知を少しでも有利にする触認知の条件を究明する必要がある。 第1部では実物の表象としての絵の触認知の困難に描画経験の有無が関係するという観点から盲人の自由画を集めたが、思いついても画像イメージがわかないという訴えが多く、描画数は少なく、ほとんどが平面的な模式図であった。第2部では触刺激のディスプレイ条件を細かく変化して閉眼晴眼者の触覚の認知精度を調べ、視覚の結果と比較するという方法で研究が行われた。3次元事物の2次元投影図形が触覚的表象としての意味をもつことが如何に困難であるかが再び明らかにされた。しかし、図形を可能な限り単純化して示すこと、とくに透視図的な表現や3次元示唆表現は視覚経験の豊富な閉眼晴眼者であっても触覚的には不利であるので除去すべきであることが示されたが、その一方で単純化によって弁別的特徴を欠いてしまうことが認知を低下させることもあるので個別的に注意する必要があることが指摘された。また、触察の仕方が認知の精度に少なからず影響することも質的な解析から示唆された。同時に視覚経験のない盲人に対する描画や触画に触る経験が豊富になるような働きかけが幼少期から必要であることが提言された。第3部においては、視覚で周知の主観的輪郭線効果が触覚においても認められ、客観的には輪郭が示されていない部分に特定の形を認知することが触覚でもあることが明らかにされた。視触の関係について、また一つ新たな関係が明らかにされたことになる。
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