本研究の目的は、主として日本人被験者を対象として、日本人が人種の異なる顔を認識する過程にみられるOwnーrace Biasについて検討することである。研究方略として、白人、黒人、日本人の顔写真を用いて(1)異なる人種の顔を記述する表現の収集と分析、(2)異なる人種の顔の形態特徴、相貌印象の評定内容の分析、(3)異なる人種の顔の記憶特性の比較という3つのアプロ-チをとることにより、日本人による顔の認識のOwnーrace Biasの特性を多面的に明らかにすることをめざしている。本研究は2年計画で実施され、本年はその初年度にあたる。現在までの主な研究成果は以下の通りである。 1、大学生を対象に、白人、日本人の顔写真各16枚についての形態記述を収集して部位別に分類し、それぞれの部位に対する相対記述量を求めた。これを人種間で比較した結果、人種が異なっても顔の各部位に対する記述の相対出現率のパタ-ンはきわめて類似しており、日本人被験者では眼、頭髪、眉という顔の上部特徴についての記述が相対的に多いことが明らかとなった。この結果を、英国人を被験者として行った記述資料と比較してみると、興味深い差異がみられた。これらの分析から、特定の人種の顔の豊富な知覚経験が、顔の各部位の相対的重要性の学習を促し、これが一種の知覚的枠組みとして他人種の顔の認識のしかたをも規定していることが示唆された(黒人の顔についての記述資料分析は現在進行中である)。 2、大学生を対象に、黒人、白人、日本人の顔写真に対する形態判断、相貌印象の判断を22名の大学生を対象に行い、比較した。その結果、形態判断については人種によって刺激写真間のばらつき、被験者間のばらつきともに大差はないが、相貌印象判断については3人種間に違いがみられた。顔から読み取られる相貌印象の豊富さ、安定性などが、顔の記憶にみられるOwnーrace Biasの規定因の1つであることをうかがわせる結果である。
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