研究概要 |
本研究では,顔の認識にみられるOwn-race Bias,すなわち自分の属する人種以外の顔の認識や記憶が自分と同じ人種の顔よりも困難であるという現象について,その生起因を探るための基礎的検討を行った.日本人,白人,黒人の顔写真を用いて,日本人被験者を対象に顔の形態記述,相貌印象評定,形態特性評定,記憶といった多種の課題の遂行成績を分析し,Own-race Biasの生起因に関する複数の仮説について比較検討した.まず,顔の形態記述については,大学生男女の顔写真を用いて日本人と白人の比較,20代から50代の男子の顔写真を用いて日本人と黒人の比較を行った.その結果,日本人と白人については記述部位(髪,額,眉,目,鼻,口,顎,輪郭等)の相対頻度間に高い相関がみられたが,日本人と黒人の顔に対する記述部位の相対頻度には目だった違いがみられた.黒人では頭髪の記述が少なく(日本人の約半分),逆に鼻の記述が多く(約2倍),また人種への言及は多いが年齢への言及は少なかった.また人種の違いに関わりなくいずれも目の重要性が高いという点では共通性がみられた.相貌印象及び形態特性判断についての比較であるが,平均値でみると形態判断では人種間に大きな違いがみられたが,相貌印象判断では総じて差は小さく,全体として日本人の顔が他人種よりも否定的に評価される傾向がみられた.また相貌印象判断の顔写真ごとのばらつきを見ると,人種間に目だった違いはみられず,相貌印象の読み取りにくさがOwn-race Biasの生起因であるという説は支持されなかった.再認記憶成績の比較では日本人の顔の記憶成績がもっとも高く,白人と黒人の再認率はほぼ同じであった.こうした差は直後再認,遅延再認(1週間後)のいずれにおいてもみられ,遅延に伴う再確率の低下は人種の違いによらず同程度であった.このことから人種の異なる顔の再認困難は記銘時の符号化困難に帰せられると推測できる.
|