本研究の目的は、顔の認識にみられるOwn-race Biasの生起因を探るための基礎的検討を行うことであり、日本人、白人、黒人の顔写真を用いて、顔の形態記述、相貌印象評定、再認記憶課題の課題の遂行成績を分析し、Own-race Biasの生起因に関する仮説について検討した。研究1では、顔の形態特徴の記述課題を日本人と黒人の顔写真を用いて実施し、形態特徴の相対頻度の比較を行った。日本人被験者では、いずれの人種の顔写真に対しても、目に対する記述が多いという点は共通していたが、黒人の顔写真では頭髪の記述が少なく(日本人の約50%)、逆に鼻についての記述は多くなるなど(日本人の約2倍)、いくつかの顕著な相違が表れた。また人種への言及は黒人の顔写真については約半数でみられたが、日本人の顔写真については10%程度と少なかった。一方、2名の黒人被験者の結果をみると、まぶたの形状や眉に対する記述がみられないなど、形態記述のおける顔の部位、特徴の相対的重要性が被験者の人種によって異なることが示された。研究2では、日本人、白人、黒人の顔写真に対する相貌印象(親しみやすい、短気な、など)の評価を行い、特徴を比較した。Own-race Biasの生起因として、相貌印象の認識の困難さを仮定する説がある。本結果がこの説の予測と適合するか否かを検討したが、日本人と白人の顔写真の比較では相貌印象の評定内容および評定に要する時間のいずれの指標においても、仮説を支持しなかった。しかし、黒人の顔写真については、相貌印象の認識が顔の表情に依存する傾向がみられ、また印象評価の時間も他の人種の顔よりも長くかかることが分かった。研究3では、3つの人種の顔写真を用いて、直後再認、遅延再認課題を行った。その結果、いずれの課題においても日本人の顔写真に対する記憶成績がもっとも高く、Own-race Biasが確認されたが、人種と課題の要因間に交互作用はみられず、人種間の記憶の相違は主として記銘時の階段で生じることが示唆された。
|