研究概要 |
本研究では、(1)母親の「遊戯意図」に根ざした「からかい」(MTB)が、どのようにして子どもに伝わるのか;(2)そこにどのような発達的変化があるのかを調べてみた。とりわけ、母親の“遊戯意図"を示す「サイン」に注目することで、MTBが“虚偽の行為"であることを了解し合う過程を検討した。 対象児は、住民票から抽出した1、2歳児100余名のうち、応諾を得た1歳児15名、2歳児12名だった。 これらの対象の家庭に訪問して、ドラキュラ人形、成人男性のお面、怪獣などのユ-モラスだが恐さを含んでいる玩具で約10分間、母子遊びをしてもらった。 分析の際にはMTBと同時あるいは直後に表わされた大げさな発話、笑いなどの表出を(プレイ)サインと定義した。結果から、1,2歳児ともに、全MTBのうち、子どもの快反応を引き出し、その「遊戯意図」が伝達したと考えられるのは、2割程度に過ぎなかった。約半数近くは、無反応ないし不安反応で、この年齢では、母親の「遊戯意図」の受容が困難なことが示唆された。だが、2歳児では1歳児よりもアンビバレントな反応が多く、過渡期の状態にあるのではないかと考えられる。また、いったんサインが伝わるとそれ以降のMTBの成功率は高まる傾向にあり、一旦、「遊びの枠組み」が成立すると共有される傾向にあった。 一方、MTB使用頻度の個人差も大きく、なんとか子どもの快反応を引き出そうとMTBを多用し、結果的には失敗を招く場合が多かった。また、子どもも快反応が多い事例と、無反応が多い事例とが認められた。さらに、成功事例ではMTBと同時に素早く多数のサインを送っていることが多く、そのタイミングが意味を持つことが示唆された。今後さらに、MTBがどのように快・不快誘発に分岐するかについて発達的検討を進めてゆく。
|