母親が子どもとの遊びとして、子どもをくすぐったり、軽く脅かしたり・驚かしたりすることは、日常でしばしば観察される。このような母親の行為を本研究では母親の遊戯的からかい(MTB)と呼ぶことにした。MTBは、本来受け手を不快にさせうる刺激的な行為と、それが“遊戯の意図"に基づく“虚為行為"であることを意味する行為に随伴するサインから成っている。そして、受け手が、行為自体よりも随伴するサインの「意味」を重視することで行為者の遊戯意図が了解される。したがって、MTBが子どもの楽しさを引き出せるためには、子どもが母親のサインを検出して、それが「ふり=虚構」であるという理解から「遊戯の意図」を受容できることが前提条件となる。 我々は、既に1歳前の乳児は母親の笑いに反応する様式でサインの受容をしていることを見いだしている。本研究では、この成果を引き継いで、2、3歳児がMTBに潜在する遊戯の意図をどれほど読み取れるのかを縦断的に調べてみた。その結果、興味深いことに、母親の方は頻繁に楽しい表情を見せたのにもかかわらず、2歳児ではMTBへの強い恐怖ないし戸惑いと嫌悪を示した。ところが3歳になると、笑い顔で「恐い、恐い」といいながら子どもの方からMTBを誘う母親との駆引きを楽しむゲーム様のやりとりに代わった。これらの結果を総合すると、サイン検出が、2歳からは単なる母親の表出への反応から、母親の行為自体の虚構性からその意味を探るという様式に移行したがまだ十分に読み取れず、葛藤を示したと考えられる。しかし、3歳ではそれが可能となり、子どもの反応もまた虚構化し、遊戯化したのではないかと考えられる。 このように、MTBは、子どもの他者の「心の理論」の発達的変化と結び付いた問題といえる。
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