本研究は人々の日常生活の中で発生する病いの経験と病い行動、及びそれに関する社会的ネットワークの実験を、わが国では数少ない健康日記調査により明らかにすることと、新たな調査手法の可能性を探ることが主たる目的であった。 文献研究の結果、それまで研究のほとんどなかった子どもと民間療法の利用者を対象とすることとして、調査手法の検討を兼ねて、いくつかの健康日記調査を実施した。 それらのうち、もっとも包括的で規模の大きかった兵庫県山間部の1小学校での調査結果は以下のとおりであった。 この調査は平成4年4月から平成5年1月までの10ヵ月間行われたもので、4〜6年の全児童74人が対象となった。 児童は1人当たり毎月1件程度の康健に関する問題エピソードを経験していた。1人当たり平均エピソード数は女子と高学年に多い傾向が見られた。エピソードの日数は大部分(70.3%)が1日で終了していた。問題の内容では、外傷(28.6%)と風邪・呼吸症状(22.2%)が多かった。病い行動の内容は、特別な対応をしなかった場合がもっとも多く(41.1%)、続いて保健室の利用(20.4%)が多かった。全エピソードの中で医師・歯科医師を1回でも受診したのは7.7%であった。問題が発生した場合に、そのことを話す相手は母親でもっとも多かった。 全体として本調査では、季節、学校生活、家庭という環境要因が、子どもの健康問題、病い行動等と密接な関係のあることが示唆された。 調査手法としての健康日記は、健康問題の発生と病い行動のプロセスを明らかにするのに有効であることが確認された。また今後は、他の記録資料やインタビュー等も活用して総合的なアプローチをとることが、こうした問題の全体像を明らかにするのにより好ましいと考えられた。
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