在日韓国・朝鮮人社会における先祖祭祀の実態を解明するために、この研究課題においては、光山金紙心親族会を主たる調査対象にした。それは在日コリアンとしては唯一といってよい、親族会専用霊園を設けており、民族様式による先祖祭祀を集団として維持しているからである。その象徴的儀礼として、旧8月15日に営なまれる秋夕祭において、始祖から代々の先祖を祭祀した慰霊稗の前で「先祖の光栄なる伝統をさらに光満ちあふれたものにする」という宣誓の儀式から始まる。それは墓前祭を通して民族心を涵養する意図のもとに営まれることを示している。儀式の服装も朝鮮様式のものであり、民族アイデンティティを再確認させるものである。この始祖祭の後、個別家族での祭祀が営まれる。しかし、個別家族においては、祖父母、父母などの墓が本国に移葬して造られているもの、日本様式の墓碑になっているもの、本国では決っして造られない「水子供養塔」が造られているなど、多様である。それらの相遺は今回の調査では本国とのネットワークの濃淡によるものと想定された。そこで朝鮮社会において、先祖祭祀の実修は最も重要な倫理規範として今日まで維持されているが、日本社会に取りかこまれている生活状況のなかでは、そのあり様は民族性保持と、同化の狭間にあるといえる。 この研究課題で得られた成果は1992年11月1日に第65回日本社会学会大会において「在日コリアン社会における先祖祭祀-墓碑建立をめぐって-」という題目で発表した。そこで今後の課題として、今回の調査対象者は済州島出身者が大多数であり、朝鮮社会のなかで多分に異質の文化をもっていることをどのように捉えるかが浮び上がった。そこで、今後半島出身者との比較も必要である。
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