新宗教教団における性別役割観の比較検討と、女性信者の生活史の聴取りによって、それが実際にどのように機能しているのか、また女性が新宗教の価値観を内面化することによってどのように自我形成かるのかという課題について、考察を行なった。 資料の分析、聴取りの整理と考察については、現在進行中であるが、これまでの成果としては、昭和初年に成立した霊友会教団をとりあげ、十五年戦争下において、前線にでる男性に対して銃後の護りを担わされた女性の役割についての強調点の変化と、女性がどのように戦争の論理にからめとられ、また新宗教の教義によってある意味で女性が「解放」され、また反面それによって呪縛されていったのかという点を、性別役割の視点から、昭和9年〜19年に至る10年間の会報の女性執筆の記事をとおして分析した。 新宗教の性別役割観は、その創唱時期、教祖の性別や思想形成をした時代、体験によって、規定される側面が強い。思想全体としては伝統突破型であっても、「男は外、女は内」という性別役割観については、伝統的色彩から抜け出ることは難しく、とくに教祖の死後、時代的文脈と離れて教祖の言説が指導にもちいられる時にそれは顕著にあらわれている。実際のレベルでは、女性を布教の重要な戦力とする創価学会、霊友会系諸教団などでは、社会状況の変化に対するめくばりも見られ、ライフスタイルの変化に即した、指導やグループづくりも行なわれている。新宗教では、女性に対して「下がる」こと、夫を「立てる」ことが強調されているが、これはある意味ではそれによって男性・夫を操作するストラテジーでもある。また、「我をなくす」ことも強調されるが、これは一般的にうけとめられるような自己を喪失することではなく、新宗教のもつ価値観の信者相互ネットワークの中での絶えざる強化の過程の中での、新たな「自我」の形成過程でもある。
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