本研究は、当該研究代表者(山本)が、従来より進めてきた都市における労働者家族において見られる戦後期の変化についての実態調査の継続と展用を目的とするため、前年からのフィ-ルドでの調査を実施した。 第1の調査は、京都市における伝統的な工芸諸業での従業者およびその家族構成についての間取り調査である。とくに零細事業者においては、家族結合と職業・労働での結びつきの強さが顕著に見られた。本年度の研究段階では、そうした探索的作業にとどまり、そうした家族結合の特質を支える構造的条件あるいは地域的な規定性についての究明は、次年度の調査課題となった。文献的調査では、既存の研究を蓄積している東京都太田区の事例、さらに、北海道での調査を展開している北海道大学社会学研究室、教育学部等を訪問し、資料収集を行なった。なお、他には京都への労働者の給源でもあった北陸地方(富山県利賀村)へ聞取り調査を行なった。 第2の調査は、兵庫県尼崎市における離島出身労働者(甑島)の継続的調査である。そのため、現地の甑島、長崎県の事例、熊本県の事例についての実態の調査に及んだ。今回の段階では、組織的な調査ではなく、研究者(山本)の単独のインタヴュ-調査が主であり、より詳細な調査は次年度の課題となった。今回の調査段階では、とくに尼崎の工業労働者に見られるように、都市に移住した際の同郷人どうしの連帯の強さが強く見られる。労働の結びつきのみならず、生活上の結びつきとして、種々の契機でもって結合している。そうした結合の都市社会内部でもつ意味については、今後、労働民俗学的な形でより深く追究する必要があると考えられる。
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