本研究課題の昨年度に引き続き、京都市と兵庫県尼崎市とを対象として調査を行なった。とりわけ当該年度については、既存の研究においてとりあげられている地域について、比較の観点も加える意味で、現地を訪問して文献を中心とする調査を行なった。その対象地域は金沢市と東京都太田区であり、前者は金箔などの伝統工芸従事者を対象として主に京都の事例と比較対照をもくろみ、後者は大量の地方出身労働者を擁する大企業労働者群を通して尼崎市の事例との比較を試みたものであった。 それに伴ない他方において、既存調査資料の検討を試みた。そのために、主に各地の商工会議所の行なった中小企業に対する諸調査類を検討することを第一段階の作業とした。日本商工会議所、京都府労働問題調査室の資料室において資料整理を行ない、さらに同志社大学人文研に所蔵している西陣織関係の資料、次いでそれに関連する西陣織工の出身地たる富山県利賀村役場の資料の検討を行なった。具体的な調査の対象としては、京都府庁から紹介された京都陶磁器労働組合に所属する従業者について、主にその家族と労働の観点を中心として、聞取り調査を行なった。聞取り調査の中心課題は、伝統産業労働者(職人層)の生活にみられる家族と労働のありかたがいかに変化しているか、さらには世代的な継承がいかなる状態にあるのか、またそれに伴なって地域との間にどのような関連を有するのか、についての諸点であった。結果として知り得たのは、いわゆる「職人層」の分解という現象は、従来の通説とは違って、やや堅固な、そして家族結合の面でも強く存続していることであった。この点が、京都に於ける固有の事情なのか、また伝統的な都市の固有性なのか、あるいは産業構造の条件に拠るのか、については次の調査の課題である。調査は、現在遂行中であり、とくに質問紙調査の結果については作業中であって、次年度中には成果を公表したいと考えている。
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