〔作業仮説の設定〕近代家族の形成におけるるわが国の独自性を実証的に解明するために、つぎのような作業仮説を設定した。わが国の近代家族形成の独自成は、家族刑態(核家族)や家族の心性(私的領域の確立、情緒性の重視)における近代性の獲得に先立って、家族経済における近代性の獲得と、それともなう明確な性別役割分担を基礎とする家庭性の形成にある。つまり、わが国の近代性は、欧米社会をモデルとする社会の産業化の進展と、それにともなう国民生活水準の上昇に負うところが大きいとみるからである。〔調査対象〕わが国の近代産業の進展がある程度みられ、しかも1991年度の時点で調査可能な対象者の得られる時期という条件のもとで、1921年(大正10)以前生まれの都市近郊(郊外と隣接農村)育ちの人を対象者として選ぶことにした。結果として、大阪府下の摂津市、吹田市在住の70歳以上の対象者50名の中から、聞き取り調査の協力を得られた18名から資料を得ることができた。〔結果〕親の職業と地域社会の性格が家庭性の形成にかかわる重要な要因であることがわかった。すなわち、親が近代産業就業者である場合、現代に連続するかたちの家庭生活の存在をみることができたが、農家では、家族の生活は村落共同体に深く根ざすかたちをとっていた。また、居住地が都市郊外の新興住宅地域では、大正・昭和初期においてさえ、両親をパパ・ママと呼ぶような近代家庭の存在を確認できた。しかし、そこから数キロしか隔たっていないにもかかわらず、農村地域である場合には、家族内の身分階層の違いが食事風景にも映し出されていた。職業を通しての近代産業との関わりや新しい郊外地において家庭性の形成をみることができたが、自然環境の破壊の程度や過密の程度がまだ低いこと、子ども数の多いこと、家庭の電化が行われる以前であることなどから、顕著な子ども中心主義や子どもをめぐる家庭の閉鎖性は認められなかった。
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