士族の社会移動とは、集団の社会移動の一つの形態である。士族の社会移動を十分に明かにするためには、(1)旧武士社会内での個々の武士の身分的地位に関する全データ、(2)明治期のしかも廃藩前の身分的地位に関するデータ、(3)廃藩後の「職業」「学歴」「所得」などのデータが必要である。しかしながら、これらのすべてのデータをわれわれが現在入手することは不可能であり、したがって不完全なデータをもとにした階層移動の分析は不完全たらざるをえない。津軽士族の場合、津軽市立図書館、青森県立図書館、国文学研究資料館国立史料館などのデータにより、(1)と(2)に関するデータは、かなりの部分が完全なものを入手できたが、(3)に関してはいずれの機関においても不十分なデータしか集めることができなかった。また廃藩後に全国各地でつくられた士族会は、津軽の場合その活動を休止しており、収集が期待されていた(3)のデータが補充されなかった。この不充分なデータをより完全なものにするために、中央や各府県レベルの官員録や教職員名簿などを中心として津軽士族の職業や学歴データをより完全なものにするため努力中である。現在までの分析では、他の藩の分析結果と同様に、旧武士社会内での身分的地位と、明治十年代頃の職業地位には強い正の相関があり、またそのような家庭出身者の学歴は、一般的な傾向として高い学歴を持つ傾向にあることが明かになっている。このことは、武士団の崩壊過程は、地域性よりも社会階層によって、より強く制約されていたということを物語っている。
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