大学入学者選抜のものさしになるAレベル試験は少数の科目を深く理解するということに主旨が置かれている。したがってAレベル試験は大学教育との接続が極めてよい。イギリスの大学生の中退率が低いことや多くの学科が三年間教育であるのはこのようなAレベル試験の特徴によるところが多い。しかしこのこと(アカデミックな知識の試験)によって労働者階級の子弟をAレベル試験からとおざけることにもなっている。管理職・専門職階級と労働者階級の大学進学格差は依然として10倍の開きがある。第二の知見は、Aレベル試験は事実の記億をさけ事実をどのように評価し分析するかの能力に重点が置かれているといわれている。しかし、意図と現実は異なっているというのはAレベル試験においても例外ではない。現実にはイギリスのAレベル試験も暗記、詰め込み型であり、試験技術を要徒し、思考を鋳型にはめ冒険心を失わせるものだという強い批判がなされている。なお本年度の研究においてイギリスの大学進学に階級格差が依然として大きいことがあきらかにされたが、この点について日本の大学入学者との比較研究が必要である。イギリスの大学進学率は8%強であるが、日本の場合も選別度によって同年齢人口8%水準までの大学を選び入学者の階級をみたときに、はたしてイギリスよりも機会の平等が大きいといえるかどうか。日本の大学進学における機会の平等問題もあらためて問われる必要がある。その点で第二に指摘したことと重なるが一見日本の大学入試は知識の詰め込み型だからAレベルと異なって家庭の文化資本(cultual capital)との関連が少ないようにみえるが、実際は日本の大学入試においても文化資本の質と量が学力の深い規定要因になっているのかもしれない。Aレベル試験と日本の大学入試の内容面にわたってどのような知識、能力、文化資本を要求しているかのインテンシィブな比較研究を来年度の課題としたい。
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