本年度は、アメリカとイギリスの教育財政改革に関って作業をすすめた。アメリカについては、いわゆる教育改革の「第2の波」の時期における連邦補助金政策の展開と州教育財政改革の動向に焦点を定めた。その理由は、地方学区レベルでの教育予算や教育財政管理の諸改革が、国や州全体のいかなる政策動向や改革戦略から促されてきたものであるのかを明らかにし、その評価を見定めなければならないと考えたからである。連邦補助金に関しては、1981年の総合予算調整法-教育統合改善法の制定の意味とそれが及ぼした影響を検討し都市学区財政の悪化を生起させていることを明らかにした。そして、そうした背景をもって1980年代に再び活発化した州レベルの教育財政改革訴訟の展開とその内容を吟味した。アメリカの教育財政改革訴訟は、1970年代以降今日まで続いているが、それはその特徴から3つの時期に区分できる。本研究が分析した第3期(1989年以降)は、従来とはことなる新しい内容の判決と財政改革を生みだした。それは、州が現代社会において必要な「適切な教育水準」を設定しそれを全ての子どもに保障すること、都市学区・学校のハンディ(都市過重負担)を補償すること、学校の教育改善努力を支援し促す諸方策を図っていくことなどを州政府に求めるものであった。教育財政改革が、納税者の負担の平等化にとどまらず教育の質向上の課題と深く関連づけられて展開されはじめている。教育の質向上と教育財政改革の課題は、イギリスでも同様に検討され模索されている。その一つの動向として、1988年に導入を図られたLocal Management of Schoolの内容とその実態、それをめぐる問題状況を分析した。地方教育当局(LEA)へのアンケート調査も行ない(回答率45.7%)その実状把握にも努めた。LMSの導入によりLEAと学校理事会との間で権限の再編が進行しているが、今後の展開を含めその評価については検討すべき課題として残された。
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