本年度は約1年をかけて計60余時間にわたり、小学校6年生児70名(男女約半数ずつ)に初級英語を伝統的Grammati cal Approach(GA^1.文法中心的方法)とCommunicative Approach(CA^1.意思伝達中心的方法)の2通りの方法で別々に教え、その結果を能力面・意欲面の両側面から比較した。 能力面で特等すべき結果は、これら教授法と学習者の適性(とくに英語既有能力と言語性知能)との間に長期的に安定した、しかも学習開始直後とは異なる交互作用(ATI:適性処遇交互作用)が確語されたことである。これは特にヒアリング能力に顕著に見られたもので、英語既有能力の個人差はCAよりもGAで結果の個人差と相関が高いのに対し、言語性知能の個人差はGAよりもCAで高く結果の個人差と相関していた。いいかえれば、GAでは英語の領域固有の知識が、またCAではより一般的な知的能力がそれぞれヒアリング能力獲得に影響を及ぼす適性であることが示唆される。そしてこのATIパタ-ンは、寺語を始めたばかり(本実験に先立つ20時間の教授直後)の時点でのパタ-ン(言語性知能に対してCAは補償的に、GAは特恵的に効く)と大きく異なるものであり、学習の進行とともに適性構造が変化することを示するものとして興味深い。 意欲面で注目すべき結果は、CAとGAで学習におよぼす意欲の機能が異なり、ちがったプロセスが見出されたことである。すなわちCAでは【学習者の能度・性格要因(外向性、外国人に対する能度)→学習意欲→学習結果】というプロセスが見出されたのに対し、GAでは、学習意欲を媒介せず、もっぱら知的能力がモ習成果を規定していることが示された。さらにGAでは学習者の認知する学習意欲の程度に教師間差がほとんど見られないのに対し、CAでは教師差が大きく、授業の進午とともに差が拡大してゆく傾向が見られた。 これらの結果は生態学妥当性の高いものと考えられる。
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