本研究は、初等英語教育におけるコミュニカティヴ・アプローチ(CA)について、比較的長期にわたる実験的な教授・学習過程の成果を通して、その方法論的特色を明らかにしようと試みたものである。その際、とくにわが国の伝統的な文法的アプローチ(GA)あるいはCAに文法規則の教授を付加したものと対比した。 初年度(平成3年度)には、69名の小学6年生児を週2回約10カ月にわたり、CAとGAの両方の教授法で教授した。教授法の主効果については、筆記テストではGAが、口頭テストではCAが有意だった。また流動性知能についてCAで特恵的、GAで補償的となり、既習英語学力についてCAで補償的、GAで特恵的となるATI(適性処遇交互作用)が見いだされた。このパターンは初期のものと反対でありながら、学習期間全体を通じて安定していた。また意欲面では、CAでは学習意欲を変化させて学習成果をもたらすのに対し、GAでは学習意欲を介在としていなかった。 2年度(平成4年度)には、160名の小学5年生により、CA対GAの比較ならびに外人アシスタントの有無の比較を目指した第1実験と、第1実験の参加者のうち70名のの小学6年生により、CAのみとCAに規則教授を加えたものとの比較を目指した第2実験を行なった。そして第1実験において先行研究の初期の結果を、また第2実験では本研究初年度の結果を、基本的に追認した。 本研究の結果は、学習者の適性との関係でコミュニカティヴ・アプローチの特色を明らかにした点で、実践的に意義があるだけでなく、適性構造が学習過程の中で変化し、かつ長期的にある程度安定することを示した点で、適性理論の理論的視点からも興味深いものである。
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