研究概要 |
私立大学の授業料は、1988年において学生一人当り平均約54万円、入学金を含めた初年度納付金は、約100万円になる。個別私大はそれぞれ独自に授業料水準やその他納付金水準を定めるのだが、本研究はそれがどのようなメカニズムによって決定されるかを解明する手がかりを得るために、(1)日本の個々の私立大学の授業料が、大学特性といかなる関係になっているかを実証データを基に明らかにし、(2)その結果をアメリカでなされた実証的研究成果と比較し、さらに(3)私立大学授業料と高等教育政策との関連を日米比較検討した。 実証分析は、私大の文学部、経済学部、工学部、医学部の大学学部特性データ(授業料、入試難易度、入学定員、定員超過率、教育学生比等を含む12変数)を用い、まず単相関を計算し、さらに授業料を入学難易度に回帰させた。その結果、日本では、入試難易度と授業料とは正の相関にあり、入試難易度が高い、つまり威信の高い大学ほど、授業料は高額になっていることが分かった。また限界授業料収入、すなわち入試難易度が一単位増加すると学生一人当り授業料増加分は、例えば経済学部は5,016円となる。また授業料と入学定員、在籍学生数との相関は無い。最後に、日本では授業料が高いほど教員一人当り学生数は多くなることが見出せた。 以上の分析から日本とアメリカの私大システムには、威信が高いと授業料が高くなるという大学教育の市場主義が見られる。市場主義は需要が多いほど高価となり、経済合理的である反面、大学教育システムにおいて、育英と機会均等の政策課題とコンフリクトを生じさせる。アメリカにおいてこのコンフリクトは、奨学金プログラムと州立大学との組合とで解消されているが、日本において育英は国立大学が担うとしても、機会均等に問題が残る。日本においても私立大学の機関助成に加え個人援助の充実をはかる必要がある。
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