南西諸島の現地調査(沖縄本島北部で実施)で霊的職能者の呪言を収集することができ、儀礼行為の脈絡に位置づけ、職能者でない人々の説明と対比することによって、その意味をより明確にする作業を行なった。その一部については『歴史人類』誌に発表することにし、現在印刷中である(1992年3月末刊行予定)。文献資料は琉球大学図書館の島袋源七文庫等を閲覧して当研究に関連する部分の複写と整理を行なった。しかし、それら現地調査、文献調査とも不完全であり、次年度に継続してよりまとまったものにしたい。これら南西諸島の資料との対比を行なうための台湾法師の神呪の検討については、台南の法師が来日し9日間滞在したため、その間にかねて収集していた文書や儀礼場面のビデオ記録の内容に説明を得ることができた。この際、神呪の録音も重ねてできたので資料の蓄積ができた。一方、漢訳神呪あるいは録音した神呪の教会ロ-マ字による表記については、順次パソコンに入力して整理を進めている(謝金は入力作業の補助者に当てた)が、本年度計画していた台湾南部地域の発音に通じる専門家のチェックが、先方の都合によりできなかったため、次年度に行なうこととし、今年度は研究代表者が法師自身に読みあげて発音のチェックをするにとどまった。さらに、法師のライフヒストリ-が、台湾の社会・文化的背景を考察するうえで、手ががりとして重要であることが今年度の作業を通して明らかとなったので、次年度以降はこの点にも配慮したい。法師の多くの職能のうち、死者のかかわる儀礼について資料の収集が遅れているため、インフォ-マントとなる法師を増やす必要もあり、信頼間関を築くのに時間を要することからすると、その候補者の見通しを得ることが次年度に課せられている。
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