本研究の主要な目的は南西諸島と台湾における霊的職能者(南西諸島ではノロとユタおよび村落民とそれらを仲介する人々で、台湾では道士と童乱およびその中間に位置づけられる法師)の儀礼行為とそこで用いられる神呪の事例収集と整理であった。このうち南西諸島においては沖縄本島北部東海岸の一村落において、正月のカーメー儀礼の観察とそこで用いられる呪言の収集記録ができ、儀礼行為と一般の人々の意味付けのちがいとともにまとめることができた。さらに文献資料は琉球大学図書館の島袋源七文庫等を閲覧して、当研究と関連する部分の複写と整理を行なった。南西諸島の地域ごとに精組はあるが、霊的職能者の神呪の比較研究にとり組むための基礎資料の整備はできたと考えられる。それとともに『南島歌謡大成』として集大成されたかに思われた神呪の収集整理が末だ不完全は状況にあることも明らかとなり、情報利用の便を計るためのデータベースの必要性も感じられた。南西諸島の資料と対比すべき台湾側の資料は全く比較できる水準になく、基礎資料の整備すらできていない状況である。台湾の研究者の少なさにも原因するが、収集資料そのもののレベルを上げておかないと最近の変化の激しさにも対応できなくなることが危惧された。文字化されていない秘呪のデータ化に当っては教会ローマ字を用いて統一した基準によって資料化すべきであると考えられる。幸い研究期間中に台湾から法師が来日し、かつて録画した儀礼の説明を得ることができたので一部を報告にまとめることができた。行為と対応させて神呪を検討し、儀礼のバリエーションの全体を綜合してその特徴をとらえるのが今後の課題である。
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