本研究の目的は、南西諸島における抽籤制に関する文化人類学的分析である。このためのテ-マとして、「現状の把握」「地域的差異」「民俗論理と受容態度」「変遷過程のモデル作成」「比較研究の視点を提示する試み」をあげ、主として村落祭祀の祭司を選定する際に行われる抽籤制を対象としている。さらに、命名の際に行われる抽籤制についても可能なかぎり上記テ-マでの分析を試みている。本年度は、宮古島城辺町と平良市の村落でフィ-ルドワ-クを行い、さらに民俗誌の分析により研究を進めた。「現状の把握」については、これまで報告の少なかった城辺町福里の村落祭祀について検討してみた。担当する神役が女性二人、男性一人と小規模な形で維持されていた。「地域的差異」については、抽籤の方法における宮古島と石垣島の差異が明確であり(紙による抽籤と米粒による抽籤)、これが示差的な特微であると考えた。「民俗論理と受容態度」については、今回の調査でも抽籤の偶然的結果を超自然的存在の啓示と受け取る考え方がやはり一般的であった。結果の解釈にみる〈合理化〉は受容態度の明確な表現の一つである。「変遷過程のモデル作成」の起点となるこの制度のはじまりについては、明治初期とする従来の考えよりもっと遡るだろうとする見方を多く聞くことができたが、やはりこれも明確な根拠がないまま言い伝えられているものであることが分かった。「比較研究の視点を提示する試み」については、さらに来年度の研究による総合的なまとめにより引き出されるものであるが、現時点では、宮古島と石垣島との差異の分析が視点の提示に大きな意味をもつであろうという見通しをもっている。また、命名の習俗と抽籤制の関連については、伊良部島の一事例をまとめた(大越1991)。決して整った形で伝承されている世界観ではないが、名前のつけ方を通して、人、祖先、神のつながりの一端がうかがえた。
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