本研究の目的は、戦国大名の権力意志実現・領国の政治的統合のシステムを、最も自立性が強く統合が困難だった国衆的有力家臣との関係を中心に解明し、戦国大名領国の独自の歴史的特徴を確定するための、基礎作業である。本年度行なった具体的作業は、第1に、パソコンソフト「DATABOX」を使った、上杉氏および毛利氏奉行人関係(主として発給)文書の分類・整理と、それに必要な史料の収集・原本との照合である。第2に、パソコンソフト「ロ-タス」を使った、戦国大名検地史料(武田氏の「恵林寺検地帳」)の分析(身分別の、持ち高・負担増加率比較等)である。第3に、越後色部氏・石見益田氏等国衆の、居館を中心とする支配領域の現地調査である。以上の作業は未だ中途の段階であり、確定的結論が出る状況にはないが、さしあたって検出された特徴的事実と、今後の研究で留意すべき問題は以下のとおりである。第1に、戦国大名の行政において、文書の授受関係は多元的・複線的で、奉行人の職掌に対応した官僚制的行政システムが成立しているとはいえないことである。それは、個別的な人格的結合関係が、当該期の社会システムにおいて依然重要な役割を果していたことを示唆する。第2に、国衆の所領において、居館・市場・集落・耕地・港湾などの立地から、社会・経済生活における領主と民衆との関係の緊密さが見られ、「色部年中行事」に示されている人格的支配・依存関係の強固さには社会的根拠が存在することである。第3に、戦国大名検地を通じて形成される在地支配方式において、給人や百姓の個別編成が大きな比重を持っていることである。従来、検地を通じて村請制的関係が形成されることが強調されてきたが、第2点での指摘と併せて、当該期における在地領主制的支配の強固な存在を重視する必要がある。それは、本研究の意義の再確認にもつながる。
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