「近世以降における都市内水運の展開」をテ-マとする本研究にあって、本年度の実施計画は近世都市江戸から近代都市東京にわたる都市内水運の展開について研究を進めるものである。 都市内水運を「河川・運河・港湾の別を問わず、都市内の水面を活動範囲する水運」とすると、都市内の陸地を起点または終点として営まれる水運に他ならない。この陸地は水路に面し、人または物資の積み降しのできる場所ー河岸または港に他ならない。したがって、都市内水運の研究は、まずもっとその河岸と水路を明らかにすることを出発点としなくてはならない。そのため近世都市江戸の町づくりと水運との関連とその変容について、全般的調査と資料の蒐集整理を行い、江戸市内における河岸と水路の所在を明らかにした。その上で、河岸と水路の管理維持、その利用、水運に関する手段や機構について調査し、それらの実態を明らかにすることに努めた。 明治維新の変革は、江戸を東京と改めさせたにとどまらず、近代資本主義と近代化を進めることとなった。江戸以来の都市内水運も大きな変容を迎えた。近代東京の町づくりとしての都市計画の中にあって、近代資本主義発展のための基盤である交通運輸の改革が進められ、都市内水運は、欸道・沿岸海運の発達に対応しながら、工業立地とも深く関連し変容を迫られるが、これらの点についての調査を進め、資料の蒐集整理に努めた。そして、この近代化の問題は、ひとり江戸・東京にとどまる問題ではなく、東京以外の諸都市も都市内水運の変容を迫られた。したがって、名古屋・大阪などについても調査・研究の必要があり、これら諸都市と東京との比較もまた重要であると考え、これら研究のための調査等も進め、より豊かな研究成果を期したい。
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