今年度は広島大学文学部国史学研究室に四回、東京都渋谷区のたばこと塩の博物館に一回資料調査を実施した。広島大学では塩業関係資料を筆写すると共に、塩業関係論文のコピーにも時間を費やした。またたびたび広島大学有元正雄教授の指導を受け、近代瀬戸内海地域における塩業構造の研究に対する理論的体系化を試みた。一方、東京都のたばこと塩の博物館においては、ここに瀬戸内全体の塩業に関する資料が豊富にあるため、できる限り近代塩業史関係資料に目を通し、今回新たに「塩生産力及生産費調査試験塩田成績比較表」を発掘することができた。購入図書は『明治中期産業運動資料』第九巻の(一)、第十二巻、第十三巻であるが、瀬戸内・近畿圏内の県下の明治二十三年の「農事調査」が所収されている。明治中期の塩田地帯週辺地域の農業構造をみ、塩業と農業の経済的連関を分析するための資料として購入した。 以上のような研究調査活動、資料収集、書籍の購入によって資料の分析を行ない、次のような論文と著書を発表・公刊することができた。(1)「香川県における製塩業の展開」(『瀬戸内海地域史研究』第4輯・文献出版)、(2)『近代瀬戸内塩業史研究』(清文堂出版)。今回の研究テーマについての考察の結果は、(2)の著書に一部収めた。この著書の内容は、「問題の所在」、I部「前提ー近世入浜塩業ー」の一章「周防国平生塩田の発展」、二章「徳島藩における塩業政策」、二部「経営」の三章「近代における入浜塩業の展開」、四章「香川県における製塩業の展開」、五章「広島県松永塩田における小作人経営の一形態」、六章「近代瀬戸内塩業の経営類型」、III部「流通」の七章「明治期塩業における流通機構の特質」、八章「兵庫県赤穂塩田における塩の流通機構」、IV部「塩業政策と合理化」の九章「専売制後の近代製塩業の展開」、「総括」となっている。
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