二年間の研究活動の中で、研究資料調査を実施した個所は、たばこと塩の博物館二回、広島大学文学部国史学研究室七回、赤穂市立歴史博物館二回である。これら研究資料調査地においては、貴重な資料を数多く収集することができた。また当該補助金によって塩業関係書籍も多く購入することができた。そして研究発表論文として「香川県における製塩業の展開」(『瀬戸内海地域史研究』第四輯所収、文献出版)を、著書として『近代瀬戸内塩業史研究』(清文堂出版)を著わすことができた。以下、研究成果のうち最もオリジナルな部分の概要を記しておきたい。 瀬戸内塩田全体でも、また一塩田内でも塩業における経営形態は複雑である。しかしながら、今日まで塩業における経営形態の類型化は近世期を含めて試みられてこなかった。そこで本研究では瀬戸内全体を視野に入れ、先学の分析を援用しながら、塩業における経営形態について試論的な類型化を試みてみた。まず第一類型は自作経営である。複数の塩田を所有している地主の場合、たとえ番頭・支配人などが塩田経営を担当し、地主は直接経営に関与していなくても、最終的に利益、損失は地主に付することから、これを自作経営の範疇に入れる。第二類型は小作経営である。小作経営はさらに、経営者的性格の羽織小作と労働者的性格の大工小作に細分類する。第三類型は当作歩方制である、これは岡山県の野崎家塩田における経営方法である。当作歩方制は、労働者的性格を多分に持った小作人の経営であるが、その損益において、地主その他との間に歩合制を導入しており、本研究ではこれを折衷型と称した。以上、近代瀬戸内塩業における経営類型を大きく三つに分けて示した。本研究ではこれら三類型について、それぞれの特徴を詳述している。
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